2022.05.14
いけばなの秘伝が記された伝書は、修練に応じて相伝されるもので、伝統的な伝授形態のひとつです。
秘伝が記された…というものの、難しい内容もあり、読めばわかる説明書というわけにはまいりません。肝心な主語が書かれていないこともあるし、読めば読むほど、気づいていなかった疑問が湧いて出てくる。それが伝書です。
したがって、わからないながらもまずは読み、何がわからないかを整理して、師匠に教えを乞うことが必要です。 回りくどいようにも思えますが、決していけずしているわけではなく、これは秘伝を守るセキュリティーなのだそうです。
たとえば、秘伝書を落としたり、盗まれたりした場合、ことこまかに書いてあると、秘伝は駄々洩れです。秘すことが、強いセキュリティーとなっているのです。余談ですが、とある伝統の世界では、その上を行くセキュリティーがあると聞きました。そこでは「嘘が書いてある」のだそうで、そうなるとまったくのお手上げです。
こうした秘伝を守る工夫に加えて、伝書の疑問をたずねてこない弟子は、そもそも伝書を読んで勉強していないということがわかってしまう機能もそなわっています。精進の道は厳しいのです。
暮しの花手帖
2020年10月から2022年3月まで京都新聞発行「Iru・miru(イルミル)」に掲載されたコラム「京都暮らしの花手帖」(書き手:池坊総務所 京極加代子)の内容を掲載しています。