2021.10.29
「いけばなは、花や枝に鋏を入れて、花をいけます。」
特段なんの変哲もない一文ですが、この中には「おや?」と、心に引っかかってほしい言葉がふたつあります。
まずひとつ目。ここでは、花を「鋏で切る」ではなく「鋏を入れる」と言っています。もちろん、意味するところは、切るという行為にほかならないのですが、「切る」だと、マイナスのイメージが強く感じられます。したがって「切る」を「鋏を入れる」という言葉に言いかえることで印象がやわらぎ、それは自然から頂いた大切な命である花材を粗末に扱わないようにという姿勢のあらわれでもあります。
そしてふたつ目。花を「いける」というのは、ごく一般的な言いまわしで、漢字にすると「生ける」もしくは「活ける」と表記されます。これら両方の漢字には命の存在をうかがわせる点が共通しており、「いける」とはつまり、命をいかすことや、いきいきとした草木の姿の表現を目指していることが読み取れます。
「いけばなは、花や枝に鋏を入れて、花をいけます。」は、ともするとさらっと読み流せる常套句のようなものです。けれども、そこで使われている動詞には草木の命をいつくしむ心、その美しさをいかそうとする意志といった、いけばなの視点をはらんでいます。
暮らしの花手帖
2020年10月から京都新聞発行「Iru・miru(イルミル)」に掲載されているコラム「京都暮らしの花手帖」(ライター:池坊総務所 京極加代子)の内容を掲載しています。