2023.02.28
四季折々、盛りを迎える花は、誰もが愛でるところですが、池坊では盛りの始めから終いまで、折々の美をそれぞれに楽しみます。
まだ堅い莟の中、季節に先駆けて咲く花は「初花」と呼び、とりわけ縁起が良いものとして扱われてきました。今期一番の花を眼にした嬉しさもあいまって、宝物を見つけたような気持ちになりますが、初花を貴ぶ習いには、そうした喜びがこめられているのでしょう。さらに花期たけなわになると生命力が満ちることから、盛りの花や初花は、晴れの席にふさわしいとされてきました。
盛りの花も季節がめぐれば、散る花と咲く花が混在し始めしだいに力を失い始めます。この時期の花は「残花」と呼ばれ、晴れの席を遠慮することになります。しかしながら、名残を惜しむという意味を込めて送別などの席に良しとする習いがあり、花に対する繊細な心がうかがえます。
そして、春の花が秋に咲くなど、ごくまれに季節外れに咲く花がありますが、これは「珍花」と呼ばれます。珍重される一方で狂い咲きという言葉を忌み、晴れの席には遠慮するという考えもあるようです。 それぞれの時期に咲く命を様々な場で活かす心を忘れずにいたいものです。
暮らしの花手帖
2020年10月から2022年3月まで京都新聞発行「Iru・miru(イルミル)」に掲載されたコラム「京都暮らしの花手帖」(書き手:池坊総務所 京極加代子)の内容を掲載しています。