2021.11.30
師走。まだ先だと思っていた期限が「はい今週です」ということに気づき、キツネにつままれたような思いをすることもしばしば。この月は誰しも暦の速度が加速するものですが、いけばな界も疾走感が増してまいります。
この時季は、出回り始めた冬の花やクリスマスオーナメントを使ったクリスマスの花など、季節や行事の花をいけて楽しみます。そんな中、頭によぎるのが一年を締めくるる正月花の稽古。お正月の花には格が高く縁起の良い松が使われます。なかでも松竹梅でいけるいけばなは、難しくて時間もかかりますが、一年の締めくくりとしてふさわしい花です。
京都では例年十二月初旬に松市があり、お花屋さんに正月用の松が出回るのもこの頃から。若松や斑(ふ)入りの松葉が美しい白髪松、蛇(じゃ)の目松、五葉(ごよう)松、門松用の根引き松など、他の地域に比べて松の種類が豊富なのは、京都という土地柄でしょうか。店先で鮮やかなポインセチアが並ぶクリスマスたけなわの中、ふと視線をやると、松が気高くひかえ、年末になるにつれ、徐々に前面に出てきます。
いけばな界に身を置く者としては、優雅に花をいけて新年を迎えます…と言いたいところですが、松に急き立てられているように見えなくもない師走の花です。
暮らしの花手帖
2020年10月から京都新聞発行「Iru・miru(イルミル)」に掲載されているコラム「京都暮らしの花手帖」(ライター:池坊総務所 京極加代子)の内容を掲載しています。